湯治とは何なのか。
その答えを求めて温泉地に取材に行ってきたところ、湯治の定義でもある「病気の治癒」について、少しズレがあるなと思う部分を垣間見ることができました。
今回は温泉地への取材で分かった湯治の現状について、まとめてみました。
後生掛温泉の「話をすること」
山間に湯けむりが舞い上がり、一軒宿が佇む…まさにそんな湯治場のイメージそのままの温泉が後生掛温泉です。当時「男らしい温浴」をテーマに記事を書いておりまして(笑)、ただ気持ちいいだけではない、温泉を取り巻く環境が男らしいということで取材にうかがいました。オンドル初体験だったので、とってもワクワクしていたのを思い出しますね。
ここは湯治滞在者向けに「湯治村」なる宿泊棟があり、ど直球の湯治が息づいています。若竹寮、極楽寮と名付けられたオンドルの大部屋は、自分が寝るスペースを紐で区切っただけという、観光旅行に慣れ切った私達にはカルチャーショックを受けるほどの湯治滞在が現存しています。
今回の取材では、宿泊者に実際に聞き取りをする機会をいただきました。そこで印象的だったのは「温泉はもちろんいいけど、宿泊客同士友達になれるのがいい」ということでした。3名のかたから話をうかがったところ、みなさん後生掛温泉で知り合い、泊まりに来る日を合わせるほど仲良くなった人もいるのだそう。
もちろん温泉のモノはとてつもなくよいです。それと同等に人間関係の楽しさがある。そんな印象を受けました。
写真もうちょいみたいかたは@nifty温泉で公開されている記事をご覧ください↓
酸ヶ湯温泉の「話を聞くこと」
ここも後生掛温泉と同じく、山中にぽつんとある、一軒宿の温泉です。総ヒバ造りの浴室はJRのポスターになったことで有名。東京から7時間ほどかかるにも関わらず、みなさん一度は見たことがあるのではないでしょうか。そんな素晴らしいお宿を撮影できる、泊まれる! 広角レンズを買ったのはこの日のためだったのではないかと、テンションが上がっていたのを思い出します。
酸ヶ湯温泉には「温泉相談室」という、看護師さんが常駐している部屋があるんです。そこで看護師さんとお客さんの会話をのぞかせていただきました。やってきたおばあちゃんの話を聞いていると、どうやらメインの話は「息子があんまり実家に帰ってこない」ことのよう。本来温泉を健康増進に活用するための相談をするところだと思っていたのですが、温泉の話はほとんど出てこない。
看護師さんがいうには「話を聞くことが、一番重要」とのこと。こうしてお客さんの気持ちが明るくなることで体の回復につながったり、たくさん話をするなかで痛みの原因を見つけることにもつながるのだそう。もっと入浴に関するアドバイスや、今日は温泉何ミリリットルを何回飲みなさい、みたいな話かと思いきや、そういうわけではないんですね。やはり人とのコミュニケーションが重視されているなぁと思いました。
もっと写真を見たいかた、詳しく知りたいかたはびゅうたびで掲載されている記事をご覧ください↓
湯治の根源は、滞在が楽しいこと
どちらの温泉でもこういった人間関係の話とともに、実感できる温泉の効果の話もありました。よく聞かれたのは病気の治癒まではいたらない「ここに来ると慢性的な痛みが和らぐ」という声。これはもちろん、温泉の温熱効果、そして温泉分析なんて人間の定義づけからは外れた「温泉の力」による効果をはじめ、長期滞在による体の休養、気温や気圧、空気の変化といった「転地効果」、バランスのいい食事…様々な要素の複合でもたらされたものです。
体が楽になると心にゆとりが出てきます。その状態で生まれる人間関係、そりゃ笑顔になりますよね。社交的な気持ちにもなります。滞在中、毎日が楽しい。そんなストレスフリーで優しい環境こそが「湯治の根源」なのではないでしょうか? 病は気からといいます、上記の体への影響と、取材で分かった心への影響、この2つの相互作用で、病気を治すことにつながっていた、そんなふうに思いました。
病気が治るのは、一つの結果に過ぎない
今回の取材を通して、「温泉地に長期滞在して病気を治す」ことが湯治、という定義づけ、これがそもそもなんか違うなと思いました。湯治場にあるのは様々な体、心への影響です。これをすれば病気が治る、という方法は存在しません。いろいろとうまいこといった結果、体の不調が改善したり、超うまいこといけば病気が治ったりもする…病気の治癒は、いわば奇跡に近いこと、なのではないでしょうか。そんな奇跡=湯治と世間が認識してしまっている。大事なのは湯治場という環境にある「様々な要素」をいかに活用するかのはずなのに…
湯治って病気の治癒がすべてじゃない。長年湯治場として営業している宿で湯治を見て思った私の感想です。さて、そんな考え方を持ち始めた同時期に、衝撃的な湯治の姿を見たことで、湯治って思っているよりずっと自由なんだなと思うようになります。
その話はまた次回。
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